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her/世界でひとつの彼女 ◆ her [いんぷれっしょん]

 her.jpg今年の梅雨時に、奇しくもAI=人工知能をモチーフにした作品の公開が重なった。そのうちのひとつがこれ。離婚寸前の傷心男が、コンピューターの音声エージェントソフト(劇中ではOSと呼んでいる)に恋してしまうという、いかにも近未来に起きそうな出来事をモチーフにしたお話。主演をホアキン・フェニックス。コンピューターの声をスカーレット・ヨハンソンが色っぽく演じている。現在妊娠中と伝えられる彼女、スクリーンに登場せずとも存在感を示して、しっかりお稼ぎのところは、さすがスーパースターと関心。いえ、褒めているのですよ。

 情報テクノロジーの進歩は停まることなく、日々蓄積される情報の量は天文学的。大手の検索サイトや、ショッピングサイト、SNSを通じて収拾される個人の行動や趣向の履歴は高度なテクノロジーによって融合・処理され、PCの画面に「あなたへのおすすめ」として現れる商品やサービスは、かなり鋭いところを突いてくると感じているのは私だけでは無いだろう。そのうち、ショッピングセンターの中を歩いている最中に、手持ちのスマホから「あと10mで、あなたへオススメのクールな新商品を手にとってご覧いただけますよ」なんてCMが流れる日も近いのではないかと思う。

 このお話の舞台は今より少し未来のようだが、今のIT事情の延長線上にありそうな設定がとてもリアル。登場する市民は折りたたみ式の映像端末を手に、耳にはイヤホン型の出入力デバイスを付けて暮らし、ネットを通じてコンピューターに話しかけ、対話式に情報を収集処理している。映像や文字が必要なときに、手に持った端末で確認するというスタイル。要するに、常に自分のPCと繋がっていて、個人の情報が今よりもっと一元的に管理されているという設定なのだ。ネット上に流れて集められる情報からでさえ、個人の趣向をかなり的確に握られている状況において、PCの内部に蓄えられた個人情報までまるっと分析された日には、深~くすべてお見通しされることは明らか。セオドアがOSサマンサをインストールするとき、「HDDの中を見ても?」と問われて一瞬躊躇するが、あんな画像やこんな動画、そんな文章やらあの閲覧履歴なんかも見られちゃうの?え”~?という葛藤があったのは間違いない。

*googleのアカウントのお持ちの方はログインして、ダッシュボード→アカウント履歴→広告→設定の編集と進むと、あなたの検索アクセス履歴から、興味・関心をgoogleがどのように分析しているか分ります。

 そんなリアルな状況設定に加え、主人公が手紙の代筆業という仕事に就いているというシチュエーション。情感たっぷりの文面をPC端末に向かって日常的に語っているというパーソナリティも、生身の人間とAIが恋に落ちるというストーリーに説得力を与えている。物語の最後に、OSに関わるある数字が出てくるのだが、セオドアと同じ状況に陥るユーザーが一定数いたということを表していて、それが同じタイプの人間の潜在数を表しているのだとすれば、今現在、美少女フィギュアや、バーチャルアイドルにお熱を上げる青少年の皆様の将来像に近いのかもとも想像してしまうのである。

 そんな背景の上に進むストーリーは、相手がAIという特殊事情を除けば、とても正統派の純愛物語であり、恋の始まりから終わりまでを、セオドアの表情を主体にしてきっちり描いて見せてくれる。 男の側をメインに描いた恋物語は、ちょっと間違うとうじうじしたものになったり、あるいはやたら過激な方向に行ってしまいがちだが、本作では主人公を結婚経験のある大人に据えているから、その辺は抑えめで、細かい感情起伏の表現が秀逸である。セオドアの元カノ、エイミーに語らせる「恋とは社会的に許容された異常な心理状態」のセリフどおり、離婚を前に落ち込みがちだった主人公が、次第にウキウキ明るくなっていく流れには、恋の魔法に掛かった経験を持つすべての人が納得できるはずだ。

 そして、大人の恋バナといえば避けられないのが肉体的な繋がり。実態のないプログラムとの関係で、その辺をどう処理するかという疑問にも答えを用意しているあたりは、さすがアメリカ映画、なるほどスパイク・ジョンズ監督。日本産のアニメなんかだったら、コンピューターを擬人化したファンタジックな妄想シーンなんかを挿入して、台無しにされそうな気がする。その点では、サマンサの声を、美少女を連想させるキュートなアニメ声でなく、ハスキーなスカーレット・ヨハンソンに当てさせたのも好感度高い。セオドアとサマンサが初めて結ばれる夜のシーンで発せられる彼女の声は、これから発売されるであろうメデイアから吸いだし、繰り返し鑑賞したいくらいである。念のため申し上げておくと、別のSF大作で、はち切れそうなナイスバディを黒皮ジャンプスーツで包んだ彼女のイメージを頭に置いているからという、余計な理由からでは断じて無い。

 完璧に自分を理解し、常に寄り添い、半歩先を読んで先回りしてくれることもある。必要の無いときには接触を絶てる相思相愛の恋人の存在が現実だったら、それを失う喪失感の大きさが計り知れないというのも想像に難くない。ネタバレを恐れず書くとすれば、ストーリーのエンディングは、ロストラブのそれであり、古今東西普遍の感情、虚無感とか空白感などと表現される「しょんぼりマインド」が、また共感を誘うのである。同じ境遇になったエイミーと互いの傷心を慰め合い、寄り添うシーンが印象的だが、やはり生身の人間のほうがいいよねーみたいな説教臭い方向に行かないところも大変よろしい。

 さて、そろそろしめくくりにしようと思うが、もし近未来に、この作品で描かれたシチュエーションが現実になったら、男としてはどうだろうかという想像をしてみたい。20年以上連れ添った旧女房に、日々ときめくというご同輩は非常に少数と思われるが、生涯現役とは行かなくても、時には恋愛ホルモンPEAプラス、ドーパミン、オキシトシン、エストロゲンがもたらす快感に浸ってみたいという希望も捨てがたい。では人の道を踏み外し、先日鬼籍に入られた文豪(?)渡辺淳一の失楽園ワールドに踏み出すとなると、引き替えに失うものも多そうだ。とすれば、サマンサのようなカノジョがいたら、社会的家庭的許容範囲内での恋愛ができるというものでは無かろうか。もし実現した更にその先には、夫がコンピュータの音声エージェントソフトと浮気したことが原因の、離婚訴訟などというところまで進むのだろうか?うーむ、深すぎて読めません。

2014/7/3 MOVIX橋本にて



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スパイク・ジョンズ監督作品とえいば、やはりこれでしょう。


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