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25年目の弦楽四重奏 ◆ A LATE QUARTET [いんぷれっしょん]

  25.jpgステージ上に立つフーガ弦楽四重奏団。演奏会の始まりと同時に、物語も始まる。静かで美しいプロローグ。 25年の長きに渡る演奏活動、強い信頼関係と互いへの尊敬によって支えられてきた、高度な芸術性と演奏力。この楽団のメンバー4名が物語の主な登場人物であり、ほぼ全員が主役だ。最年長メンバーでチェロ担当のピータークリストファー・ウォーケン)が、パーキンソン病と診断され引退を決意することで、メンバー間に動揺が走る。解散か?新たな奏者を迎えるのか?難題に直面したメンバー同士の、初めは小さな衝突が、次第にエゴ、嫉妬、ライバル心など、封印したはずの思いの噴出へと繋がり、やがて大きな対立に。確固たるものと思われていた友情と結束力が崩れかけてしまう。正に不協和音。 そこには、音楽芸術という繊細なテーマを生業とする職業人達が、その感性ゆえに持つメンタリティーが背景にあった。

 物語の始まり近くで、学生を相手に講義するピーター。ベートーベンの名曲「弦楽四重奏曲第14番」について語るその内容は、この曲の特性に言及する。7楽章という変則構成と40分に及ぶ演奏時間。そして、他の室内楽曲と最も異なるのは、楽章間に休みを入れずに演奏することとされている特殊性。弦楽器は演奏が長時間に及ぶと、チューニングが乱れてくるという宿命がある。そのままアンサンブルとして継続すべきか。一旦休止して、正しい調律に修復すべきか。判断をゆだねられる演奏者の葛藤は、まさに人生のそれと同じであり、これから始まるストーリーへの暗喩であることにやがて気づかされることになる。

  クァルテットのメンバーとしてキャスティングされているのが、フィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケン、キャサリン・キーナーそしてマーク・イバニールという円熟の俳優陣。他の三人の教師であったピーター(ウォーケン)が少し年長で、あとの三人は人生のほぼ半分、そして音楽家としてのキャリアのすべてをこの楽団に捧げているという設定。冒頭のリラックスしたリハーサル風景に、互いの濃密な歴史と、小さな問題の発端がさりげなく描かれ、後半とのコントラスト効果となっている。

 ストーリーの始まり1/3頃から、次々わき起こる問題と葛藤、次第に見えてくる、メンバー同士が長い時間をかけて積み上げてきた関係。セカンドバイオリンとビオラの担い手であるロバート(ホフマン)とレイチェル(キーナー)夫婦の愛娘までが絡んで、言わばぐちゃぐちゃな様相となってくるのを、休み無く一気に見せてくる演出が非常にうまい。あれだけの問題を詰め込みながら、ゆったりした感覚と、しかりした間を保ち、尚かつきちんと整理された演出の手腕は、脚本も手掛けたヤーロン・ジルバーマン監督、なかなかのものである。ただ、ロバートとレイチェルの娘、アレクサンドラとファーストバイオリン、ダニエル(イバニール)との関係に至っては、おぉ、さすがアメリカ人とは思うが、日本人としてはちょっと引いてしまう設定ではある。

 さて、こうして修復不可能とも思える危機状況に陥ったメンバーの関係。楽団としての行く末等、最後の落とし所をどうまとめるのかという興味が高まる頃、スクリーンでは開催が危ぶまれた演奏会が唐突に始まり、冒頭の会場へと再度誘(いざな)われる。そして、顛末については、ほとんど映画的に省略したままに、エンディングを迎え、作り手は、その答えをピーターの行動と、それに呼応したメンバーの姿で語らせるという手法をとる。思わせぶりだが、映画をよく見ている観客にとっては割と解りやすい演出だろう。 しかし、後味はとても良い。エンドロールの終了と共に終る演奏には、拍手を送りたくなる衝動がわき起こる。

 日本公開は7月上旬のこと。芸術的な香りのする作品だからといって、鑑賞するに季節はあまり関係ないかもしれないけれど、やはり暑い時期には、落ち着いた室内楽より、別の音が欲しくなる。 連日猛暑が続いていたその時期に出会っていたら、もしかしたら素通りしていたかもしれない。だから、秋風も少し冷たくなり始めた10月の下旬に見られたことを幸せに思う。そして最後に付け加えるなら、ピーターが、アレクサンドラを含む若い学徒達に語った、パブロ・カザルスとの逸話は、たまにこうして拙いレビューを書いている自分にとっても、行く先をそっと照らしてくれるような一筋の灯りに思えたことが、幸せの理由でもある。

2013/10/21 川崎市アートセンター アルテリオ映像館にて


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