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ライク・サムワン・イン・ラブ ◆ Like Someone in Love [いんぷれっしょん]

Like someone in love.jpeg イランの巨匠キアロスタミ監督が、日本を舞台に日本人俳優を使って撮った作品。主立った登場人物は数人、半日余りという短い時間を描いたストーリーは、小作品の部類に入るだろう。上映館は全国でも僅か数館。巨大シネコンでは絶対お目にかかれないだろうけれど、偶然にも出逢えて本当に良かったと思える作品だった。

 エンタメとは対局にあり、パッションやエモーション喚起が全面に出るではなく、かといって、理性や知性を総動員して作り手の隠された意図を必死で読み解くといった難解タイプでもない。摩訶不思議な空気を持った所謂「味」を楽しむ作品と評したら近いかもしれない。人生に於いて、人と人とが何かの縁ですっと近づいたかと思うと、いつの間にか自然に、そして必然的に離れていくように・・。あるいは、誰かの身の上を、ちょっとだけ興味を持って覗き見てみたらこんな風に見えましたという感覚か。「終わりも始まりもないストーリー」とは、作品チラシに書かれていたコピーの一部だが、言葉通りの作り方がその感を強くしている。

 第一幕 深夜のバーとタクシー 第二幕 独居老人の部屋 第三幕 横浜の大学近くの車中 第四幕 フィナーレ こんなシンプルな構成だ。登場するのは、80歳過ぎの元大学教授タカシ、デートクラブでアルバイトをしている女子大生明子、そして自動車修理場を経営しているその恋人ノリアキという僅か3人。それぞれを演ずるのが、奥野匡、高梨臨加瀬亮。それは、普通の人の目には見えにくいかも知れないが、メインストリートから少し横道に入ってみたらすぐに見つかるような人生模様だ。

 始まりから説明らしいものは一切無い。予備知識や、人物の配置とか関係など何も教えてくれない。そして何となく、且ついつの間にかという感じで物語は動き出す。だから、見ている私達の想像力はビンビン刺激され、舞台の情景や役者達の言葉から、その背景や過去を必死で推理推測させられ、画面を追う目と脳みそは、一瞬も休む間をもらえない。決して張り詰めているとは言えない作りなのに、何故か不思議な緊迫感がずっと続く。何とも形容しがたい空気だ。そして、聞くところによると、演じる役者達でさえ、その日撮影分の数行のセリフだけを渡されて、役についての過去も数秒先の未来も教えられなかったという。うーん、なるほど。

  そんな底意地の悪い作り手が用意した会話劇は、そのすべてが味わい深いのは前述したとおりだが、その中でも秀逸だったのが、タカシが明子を待ちながら、大学の前に停めた乗用車でノリアキに出会い、距離を詰めていくシークエンスだ。一人の女をめぐり、相容れない立場の男二人。本心と事実を隠した老人の平静を装う老獪と、女への愛をストイックに語る若い男の、今にも点火しそうな危うさ。僅かな視線の動きや表情の変化すべてが上質なスーパー演出と演技は、母国語で映画を味わう喜びを堪能させてくれる。

  必死で先読みする私達の予想を、まるっきり覆えして唐突に切られるラスト。あっけにとられながらも、その後を想像せざるを得ない。どのように収まるのが最も座りがいいのか、あるいは最悪の結末がふさわしいのか、懸命に頭を回転させても明確な形の見えない終わり無きエンディングは、ノリアキの怒号とともに不思議な余韻を持ってフェードアウトしていく。

2012/9/28 川崎市アートセンターアルテリオ映像館にて

 


トスカーナの贋作 [DVD] 友だちのうちはどこ? [DVD] そして人生はつづく [DVD] キアロスタミ監督代表作
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